うちのアプリにご褒美が多い理由を、私なりに整理しておきます。短く言うと、子どもが最初の一歩を踏み出すまでの『動き始めるスイッチ』を、外側に置いておきたいから。動き出した後は『できた』感が主役になります。
うちのアプリには、ご褒美やゲーム性を組み込んだ仕掛けが多くあります。だからこそ、こういう懸念を抱く方もいると思います。
「ご褒美ばっかりで、ご褒美が無いとやらない子にならない?」
ものすごく真っ当な懸念だと思います。だからこそ、ちゃんと書いておきたい。
なぜご褒美やゲーム性を組み込んでいるのか。それは「ご褒美で釣りたい」からではなくて、やる気の出る仕組みの入り口をつくりたいからです。
ちょっと、思い出してみてください。
「今日はがんばったから、帰りにケーキを買って帰ろう」「この仕事を片付けたら、コーヒーを一杯」── 大人になっても、自分で自分に小さなご褒美を用意して、やる気を回したりしていませんか?
それで、いいと思うんです。私もよくやります。
ただ、うちの子を見ていても、それを自分では上手にやれるのはまだ先のようです。「今日はがんばったから、自分にちょっといいこと」── そう自分に向けられるようになるのは、もう少し先の話だと感じます。
だから、子どもにだって、やりたくない時にちょっと押せるスイッチがあってもいい。うちのアプリのご褒美は、その代わりのものとして置かれています。
「やる気が出ない」「動き出せない」── これは誰にでもある瞬間です。我が家でも、何度もありました。
たとえば ADHD の研究では、脳のドーパミン (報酬の予期に関わる神経伝達物質) の働き方には、一人ひとりに違いがあることが繰り返し報告されています¹。 ざっくりまとめると、
という性質です。これは「気合の問題」というより、脳の仕組みの話に近い。その子なりの脳のクセとして、そのまま受け止めてあげるのがいいと思います。
私たちは、こうした ADHD 研究をアプリ作りの参考にしています。「人がどう動き出すか」を理解したうえで、やる気が出やすい設計を組み立てるためです。
だから「もっとがんばれ」と外から促しても、なかなか動けない瞬間がある。そういうときは、やる気を内側に求めるより、やる気が出る仕組みを環境の側に置いておくほうが、ずっと楽になります。
私たちが組み込んでいる報酬は、「最後までやり切ったら大きなご褒美をあげる」という構造ではありません。むしろ逆で、
という形で、行動の最初の方に重みを置いています。
これは、ADHD 研究でも報告されている「遅延報酬への嫌悪 (delay aversion)」² という性質を、逆手に取った設計です。「いつか出るかもしれない大きな報酬」より、「今動いたら、すぐに小さく返る」ほうが、最初の一歩を踏み出しやすい ── という人間の性質を、味方につけたいわけです。
言い方を変えると、うちのアプリのご褒美は、ゴールに置かれた飴ではなく、始められない自分を、そっと押すバネとして置かれています。
ここが、いちばん書いておきたいところです。
行動が繰り返されると、脳の中で習慣の回路が育っていきます。最初は外側のご褒美で動いていた行動も、繰り返されるうちに、その行動そのものから手応えが返ってくるようになる ── これは、人間の学習に共通の仕組みです。
つまり、こういう順番です。
うちのアプリのご褒美は、ずっと前面に出ているわけではなく、習慣化の入り口にだけ強く効くように置かれています。最初の一歩さえ押せれば、あとは「できた感じ」が自然と背中を押してくれる ── そういう設計を目指しています。
「やる気が出ないとき、最初の一歩がつらいとき、そっと背中を押してくれるツール」── そういう道具として作っています。研究結果も参考にしています。
今日も、誰かの「始められない一瞬」を、そっと押せるアプリを作っています。